乱暴に光ったり
わたしの友達はいわゆる「良家のお嬢様」だった。彼女は少し意地の悪いところもあると勘違いされることもあるが、身内の人間にはまっすぐすぎる子だった。わたしの今をみたら、彼女はなんと言うだろうか。
かわいそう? たすけてあげる? きっと彼女はわたしのために頑張るだろう。彼女にはそれができる力があるから。でも、わたしは彼女に頑張ってほしくないのだ。彼女に傷ついてほしくなくて、わたしが我慢すればいいだけで。それだけでいいのだ。
久々に会った友達はいつも通り元気そうで、可愛らしいブラウスをきて、スカートをはいていた。いつもの執事さんは今日はわたしのお願いにより、遠くで待機してもらっている。
「-名前2-、元気してはりましたか?」
「もちろん~」
「彼氏さんとはうまくやっとります? 困った時はすぐにウチに言うんやで」
「ちゃんとやってるやってる。疲れてても家事とか手伝ってくれるし、休日はデート連れてってくれるし」
「ホンマですか? ええなぁは。うちもはやく平次くんとデートしたい……」
「あはは! 服部くん誘ってユーエスジェイとか行ってくれば?」
「一回誘ってみたんやけど、和葉ちゃんに邪魔されましてな……。折角のデートスポットなのに三人で行く羽目になりましたわ……」
それでも行くことは行ったんだね、と思いながら映画館へと向かう。今日観る予定だったのはわたしのワガママにより戦争の映画にした。その映画ならば、わたしは泣いて帰っても「映画のせい」と誤魔化すことができるから。
紅葉は映画館でポップコーンは食べない。お上品な彼女はそもそも映画を観る時に食事をしたいという考えはなかった。けれども今日は珍しく頼むことにしたらしくと一緒に食べたいと味をハーフハーフでふたりで選んだ。
「平次くんがな、一緒に食べるとおいしいって教えてくれたんです」
そう言って笑う紅葉はいつもよりとても可愛らしく、わたしは自分の彼氏の話をしているときにこんな笑顔を浮かべているのだろうかと不安な気持ちになった。
映画の内容は戦争にいく女の話だった。戦争中、女だからと特別扱いされることはない。けれども女であることは揶揄される。それでも真面目に訓練に取り組み、敵兵を殺し、おかしくなりそうな精神を支え合う彼女たちをみてわたしは「あの世界に生まれたかった」と思った。誰かに辛いと頼ること、頼られることを当たり前にしている世界にいきたかった。
――なあ、何時に帰ってくんの。
スマホに流れてきたそのメッセージに「4時には帰るよ」と返信をする。厳しすぎるその門限は彼とわたしの約束だ。わたしが何かしらのトラブルに巻き込まれないように。ふたりで一緒に暮らすと決めた時に彼と約束をした。夕方以降は犯罪トラブルに出くわす確率が高い、とデータを見せてわたしに説明した彼にわたしは頷くしかできなかった。
そしてここは家から一時間ほどはなれた場所にいる。門限まであと57分。
「-名前2-、これからどうしますか?」
「ごめん、わたしもう帰らないと」
「え?」
ふつうなら、これからゆっくり散歩してどこかお店を見たりするのかもしれない。映画を観終えたばかりなのに。
「ごめん、紅葉。久々に会えて楽しかった」
「あ、ちょっと、!」
わたしにはもう縁がない高校生の制服を見ながらわたしは逃げるように街中を駆け抜けた。
電車に飛び乗り、紅葉の洋服を思い出す。流行に敏感な彼女らしいおしゃれな服装だった。きっと雑誌やテレビをチェックして、お店の店員さんとも話し合って、それで、好きな人の好みに合わせたりしてるのかも。平次くんのことを思い浮かべて服を購入する彼女を想像して、過去の自分もそうやって洋服を買っていたと思い出す。
いつからか、わたしの服は彼によって選定されるようになっていた。露出することは彼が嫌がる。それに、自分の体の傷跡を見られたくないので袖が長いものはある意味ではありがたかった。
「自分でも見られたいと思ってんだろ」
彼はわたしにそう言う。質問では無い。確認でもない。それは彼からの愛情表現らしい。わたしにはその言葉のどこに愛情があるのかなんてさっぱり理解できないけれど。
「だれか男にすがって助けてって思ってんだろ」
そんなことする暇がないくらいに家の中の仕事があって、スマホだって監視されていて、手紙を出すのもチェックされているのにどうしてそんなことを言うのだろう。
電車に揺られながらスマホを見れば紅葉から連絡が入っていた。
「今度はいつ映画を観に行きます? モミジと共にあらんことを」
ヨーダのスタンプが送られてきたと思ったら、言葉の一部が変えられる仕様になっているらしくフォースの文字はモミジに変わっていた。ふふっと笑ったわたしはそのメッセージに既読をつけないようにして削除した。彼に見られたらまたなにか言われてしまう。
残念ながら、わたしにはモミジと共にいることは許されない。