あなたのうつくしい孤独のはなし

 まあ、自分の顔がそれなりにこの社会で生きていくことに有利なことは分かっていて。わたしは微笑むことで「生きる」ことの優位さを知ったのだった。
 それと同時に、わたしの可愛さの価値とはなんだろうなーと思っていた。わたしが可愛いから何があるというのか。わたしはテレビに出るような人間でもなければ、ファッションに興味がある人間でもなく、どちらかと言えばひとりで家で過ごしていたい。そんなわたしを周りは放置せず、自分たちのグループに入れることに力を入れていた。わたしはそれに流されるしかなかった。戦う力は持っていなかった。
 周りとの輪とか、なんか、そういうものを大事にしていたらわたしはいつの間にか抜け出せないようなところで大きなミスを犯した。
「どうして、こんなことしたのよ!!」
 母から殴られてテーブルにぶつかったわたしはそのまま落ちてきた食器のせいでひどい怪我をおった。わたしはこれ幸い、と他人のグループから抜け出た。人生ではじめて戦う力をもった瞬間だった。
 昔のわたしはいわゆるオシャレなアクセサリーとか、持ってるだけでみんなが羨ましがるものだった。当時付き合っていた彼氏はわたしを見せびらかすように出歩いて、男気を見せるとか言いながら無理に奢ってきてはそれを理由にわたしに勉強で頼り、大して気持ちよくもないキスをしてきた。わたしを便利な道具にして彼はさぞ楽しかっただろう。
 今のわたしは自分の顔を武器に、自分の力で戦える人間だ。それがとても嬉しかったのに。

「え?」
「つまり、トリオン体であなたの顔の傷を隠してテレビに出てほしいということです」

 わたしは広報部隊に誘われていた。それは実力ではなく、わたしの顔の良さを買ってのことだった。それを真面目に伝えてくるのは上層部なのはバカなのか、それを誠意と思っているのか、もしくはわたしにそれ以上の価値を見いだしておらずわたしのことを「そのために」採用したのか。
 わたしは、アクセサリーとか道具以外に価値をみてもらえないのだろうか。
 わたしが考えてることなんてどうでもよくて、わたしは綺麗な顔でわらってみんなに「きれいな人」とか「いい人」と思われる立場じゃなきゃいけないんだろうか。そんなことはないはずだ。だってここは、ネイバーと戦うための場所なんだから。わたしに求められているのはその戦力のはず。顔じゃない、はずだった。

「……考えさせて、ください」

 それでも出てきた言葉は一言だった。わたしは答えることから逃げた。上層部から伝言を伝えてきた彼は「わかりました」と頷いて去っていった。遠回しに断られました、なんてことは彼は言わないだろう。そんな気がした。

 翌日、わたしは木虎に相談をした。ふたりで教室に向かい合わせに座っていた。みんなは部活に行く時間で、帰宅部の人たちがちらほらと残っていて、わたしと木虎はボーダーへ行く前に宿題を終わらせたくてここに残っていた。周りの声など気にならない、というふうに木虎は振舞っているが彼女が周りからの言葉に敏感なのは事実だ。そして彼女はそれらに振り回されることがあまりない。わたしと大きく違うところ。木虎がわたしは羨ましかった。
 木虎、と声をかけると顔もあげずに「どうしたの」と言われる。大したことないことを言うと思われている。顔をかわれて嵐山隊に誘われている、とざっくりした言葉を言うと彼女はがばりと顔を上げた。そしてふるふると震えたあとぐっと大きな深呼吸をした。

「-名前2-」
「うん」
「わたしは、あなたと同じくらい自分の顔がいいと思ってるの」
「お、おう……」
「だから言うわ。あなたじゃ、実力不足よ」
「めちゃくちゃハッキリ言うね……」
「そりゃあそうよ。同じボーダーの人間だもの。入ってみてやっぱり違いました、なんてことになったらあなたが次に組むチームはあなたへの印象が悪いでしょ。顔だけで広報部隊に選ばれた、なんて」

 それはそうだ。木虎の言うことはそれはそれで正しい。ただ、わたしは、傷のあるこの顔でチームを組んでくれる人がいるのかは謎だった。わたしは自分の顔で評価されることがほんとうに嫌いなくせに、それ以外で評価されることがまったく想像できなかったし自分のどこに良さがあるのか、ということも分からなかった。

「……あなたの長所はその目の良さだと思うの」
「え?」
「敵との距離の判断、それは大きな力になるわ。狙いを外さないもの。でも、その視線の先がかなり相手に情報を与えているのも事実だから……、それをどうやって活用するかがあなたのいまの課題なんじゃない?」
「……木虎、すごいね」
「すごくないわよ」

 木虎は照れたようにノートを開いた。勉強に戻りましょ、と言いたいのだろう。わたしの武器は、わたしの短所でもある、か。そんな風に自分の分析をしたことはなかった。

「……わたしの顔の傷って、戦う人にとって視線をとられない?」
「トリオン体で消したら?」
「美人すぎる、とか」
「ならマスクでもなんでもすればいいでしょう」

 わたしの真面目な馬鹿な言葉にも木虎はちゃんと真面目に返してくれる。わたしの戦力を信じてくれているのは、ボーダーでも、わたしでもなく、木虎ではないかと思った。

「木虎がチームを作る時になったらわたしのこと誘ってね。絶対だよ」
「絶対嫌よ」
「ひどい」

 なら、わたしはもっと力をつけて木虎に選ばれるような戦力にならなければ。
 わたしの中に目覚めた目標を見透かしているのか木虎は「まあ頑張ってね」と笑った。


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