ラブみてえ
まだ高校生だったころ、ひとりのほうが楽だとひとりで過ごしていたら周りから「ぼっち」と笑われるようになった。まだそこまでの自尊心がなかった自分はその笑いに耐えきれなかった。
そこで恋人を学校の外に作った。その方が気楽だった。自分の若さはそのまま誰かが惹かれる要因になることはよく分かっていた。
目をつけた男は簡単に恋人にはならなかった。未成年だし、と私のことを遠ざけようとしていた。どうしても、と頼み込んで恋人になった。社会人の彼氏がいるというステータスは自分の心を慰めてくれた。
「お前さあ、そういうの良くないぞ」
芹澤は、私が襲われているのだと勘違いして勝手に助けに来たのだった。そして恋人だ、と聞かされると「あいつ、どう見ても成人じゃん」という。
「そうだよ」
「で、女子高生と恋愛? 正気じゃなくない?」
「かもね」
「かもねって……」
「でも、いいの。わたしがそう決めたの」
私が、わたしとして、幸せになるには、そうするしかなかったのだ。
芹澤は考え込んだあと「それって本当に幸せなん?」と聞いてきた。私は何も言えずに彼から逃げた。
家に帰って彼氏にLINEを送ったが、ブロックされたのか一向に既読にはならなかった。
芹澤のLINEアカウントは、クラスのグループチャットから見ることができた。彼のアカウントを追加したあと、文句を言うと「真っ当な恋しろよ」と返事がきた。本当に最悪だと思った。
大学生になり、自分も成人済みの女性になった。未成年だ、と線を惹かれていた自分はもういない。大学ではひとりでいても特になにか言われることもない。だが私は恋人がいないことが不安だった。いなければ、なにか、言われるのではないかと。恋をしていなければ、人として認められないんじゃないかと怖かった。
私は手っ取り早く芹澤に告白をしてしまった。彼とはあの事件のような事故のような夜以来、ずっとLINEの友達を続けていた。芹澤はうなずいてくれた。
芹澤とキスやセックスをしたいわけではなかった。ただ恋人がいるというステータスが私を安心させるのだった。
芹澤は「お前って、俺のことが好きなわけじゃないよな」と何度も確認するように聞いてきた。私はその度にうなずいてみせた。
「……俺たち、本当に恋人?」
「そうじゃなかったらなに?」
「……さあ」
芹澤と私はずっと恋人のままである。ただ、彼が突然車を壊して帰ってきたあの日からなんとなく変わったように思う。タバコをいつの間にか咥えるだけになった彼は私に「もうこういうのやめないか?」と聞いてきた。
「……別に、いいけど」
「あ、いや。嫌いとかそういうわけじゃなくてさ! 俺、ちゃんと付き合いたいんだよ。ちゃんと、恋人になりたいんだ」
「でも。わたし、恋人とか知らないし」
「は?」
「恋愛感情がないんだと思う。世界が滅ぶとしても、わたしはセックスしたくないしキスもしなくていい。ひとりじゃなければ、それでいい」
芹澤はショックを受けたような顔で咥えていたタバコを握りつぶした。私はこれだけ一緒にいた芹澤がわたしのことを1ミリも理解できていなかったのだなあ、とおもって笑った。
「ごめんね、セックスさせてあげられなくて」