約束された勝利の女
プロミシングヤングウーマンのパロディ、映画のネタバレあり畳む
友人がレイプされた。その話までならよくある話と言えばそう。ヤンキー、不良とよばれる人間やひとりで歩く女子高生を狙うクズたちがいっぱいいて、わたしたち女はそれを避けてなんとか狙われないようにしなければならなくて。
服から可愛い下着をチラ見せするのも、爪を飾るのも、メイクするのも、ただ楽しいからなのに。まあ、それでかっこいい男が釣れたら楽しいし嬉しいなって思うけど。わたしたちが好きでストラップをたらしているのに、それが伝わらない。お呼びじゃない男たちが来るのはめんどくさい。自分を釣り餌にすると、避ける術って結構むずかしい。
スカートが短いから悪い。そんな格好をしているから悪い。ついていったお前が悪い。と、レイプされた友人は言われたそうだ。そしてレイプした男は平気でまだ学校に行ってるそうだ。わたしはすべて聞いただけ。まあ、ここで嘘をつかれても仕方がない。嘘だとしたらそれまでだ。クソ野郎がひとり減っただけ。
なぜか男たちからしたらわたしたちのような女の姿を見て、「自分のため」と勘違いしてわたしたちに襲いかかる。お前たちが悪いんだ、と。自分たちは悪い人間だから許されるのだそうだ。くそ野郎ども、しね。
男の名前は、ココノイハジメ。漢字は知らない。知らなくても別にOKだから。こいつはどうやら他に好きな女がいるらしく、でもその女を抱けないから適当に女をつかまえては殴って犯してまわして終わるらしい。クソ野郎すぎる。
未来を約束されたうら若き青年をこんなことで警察に連れていく訳には行かない、と学校側が主張したのだそうだ。これはわたしの言葉じゃなくて、わたしの弟の言葉。弟がバカなわたしの代わりに調べてくれた。約束されたってなに? と聞くと「これからも金になる人間ってこと」と言っていた。金。そんなことで友人は自分の体を恨まなきゃいけないことになった。じんけんって、そういうものじゃねーんじゃねーの。わたしの言葉に弟は泣きそうな顔で笑った。
――そうだよ、本当はそうなんだよ。
――じゃあ、わたしやるわ。復讐。
弟はとっても賢いのでわたしの復讐に力を貸してくれることになった。姉ちゃんはそれでいいの、と言われたけど。わたしは納得していた。友人がレイプされて泣き寝入りして。それで終わってもらえるなんて、男たちの考えは甘すぎる。
いい女がつかまった、と連絡が来た。一度女を抱いてマワしてからか、部下たちはおれを時たま呼ぶようになった。それも、赤音さんによく似た女の人の時に。部下たちに自分の性癖がバレているのは恥ずかしいけれど、女を抱くことに抵抗はなかった。もう抵抗する気力もなくなった女を抱くことがある意味ではおもしろかった。
「あ、こんにちは~。ココノイさんですよねえ」
連絡をうけた場所に行くと酔っ払った金髪の女がおれをみてへにゃりと笑った。赤音さんじゃないことは百も承知。だけれど、おれはこういった女を抱かないとすくわれない。
「飲みすぎちゃいましたか、おれの部下たちが失礼しました」
「いえいえ~。みなさん、優しくしてくれたので大丈夫ですよ~」
へらへらと笑う女の顔はどことなく赤音さんを思い出させる。どうしてだろう。声も、メイクも体型だって似てないのに。
「……もし、よろしかったら。奥に休める場所があるんですが」
「え~、そんなところにお邪魔していいんですかあ、あはは」
「もちろんですよ」
自分の顔がいいことはわかってる。存外にセックスできる環境をにおわせると女はにこにこと笑っておれの手をとった。合意、形成だ。
セックスしようとシャワーを浴びようとすると女がせなかにしがみついてきた。もうヤりたいなんて言い出すから、まあそれもいいかと流されてしまった。ふいに打ちこまれた注射針に、おれは何が起きたのか分からなかった。あは、と笑う女は赤音さんとは似ても似つかない邪悪な姿をしていた。
おれが、目を覚ますとベッドに安っぽい手錠で結ばれていた。横を見れば、さっきの女が素面で座っている。
「は~~い、約束されたひと! いや、この場合はベッドにむすばれた情けないひと~!」
「……てめえ、何が目的だ」
「あなたがわたしの友達、レイプしたっていうのはわかってまーす。くそ野郎、てめえみたいなくずがいるとこっちは困るんだよ。好きなカッコしてても、人にただセックスさせるだけの女じゃねーんだよ、こっちは! ……はあ。向こうにいるあいつらもころしまーす。でも、あなたはくるしませてころしまーす」
バカみたいなしゃべりにこっちの頭が痛くなってくる。薬のせいなのか、この女のせいなのか。それに、こいつがいう「レイプされた友人」が誰かもわからなかった。
「おれはそんな女知らない」
「えぇ~~、それぐらい女たちくいものに!?」
こんな男、さっさと殺さなきゃねえ。わたしってえらい子! 女はなにか適当なことを言いながら近寄ってくる。力もなさそうなクズ女。
「あなた、好きな人いるんですよねえ」
「あ?」
「その人とセックスできないからって、別の女レイプしてあそんでたのしい? かわいそうなクズだね~。クラスにいるオタクよりキ~ショッ。その女のこと考えてオナってろよ」
何かがぶち切れた。映画でもみたかのように騎乗位の格好でのしかかる女に、足を絡めて勢いそのままに体を持ち上げその細い首をつかんだ。じたばた暴れる女を殴ると、筋肉もない体にはみしりとのめりこんですぐにおとなしくなる。そうだ、女は弱い。こんなことしちゃいけない。わかっているのに体は止まらない。赤音さんにはもう会えない。会えないのだ。おれに力が足りてなかったから。金が、なかったから。
おまえに! なにが! わかるんだよ! クソビッチが!
女の体がビクビクと震え出す。顔からは血があふれていた。
てめーが、先にここに遊びにきたんだろ! セックス目当ての服装で! ナメたこと言ってんじゃねーよ!
枕を押しつけて声をあげなくさせる。裏切り者の制裁によく使っていた手段。女は気づいたときにはもう動かなくなっていた。なのに、おれは拳を止めなかった。しね、とそう叫び続けていた。
女は部下たちに呼びかけて適当な場所に捨て、駒をひとり自首させた。
そういえば、どうしてあの女はおれが主犯だと気づいたのだろうか。今までだってこういうことが起きたときには変わり身を用意してたはずなのに。
おれの元に、しらないアドレスからのメールが届いた。件名には「本命を忘れられないキショ男さんへ♡」と書かれていて。おれは迷惑メールとして削除できなかった。おそるおそる開けばあのときの女の画像が添付されていた。
やっほ~~! もう、わたし死んでるよね!? このメ~ルは弟が代わりに打ってくれました あたし、死ぬかもしれないからってことでユイゴン? ってやつで~~す
あんたの約束された未来は、お金じゃなくて豚箱だっつ~~の!! むこうで男どもとあそんでろよ、キショ男
じゃあね、じごくで会ったらまたあそぼーね ばいぴ
ココ! とイヌピーが怖い顔で部屋に突撃する。遠くで、警察のサイレンが聞こえていた。